今回から東洋医学の考え方を紹介しますが、この「東洋」の中には日本も中国も朝鮮(韓国)も含まれます。当院では中国の医学=「中医学」を基本とした診断・治療をしていますので、中医学的な症候分類をします。
中医学の理論体系はやや複雑で、知識の全くない状態から基礎を身につけるには、早くても普通1~2年はかかりますので、ここではごく大まかな説明にとどめます。
便秘の分類をする前に、まずは最低限の基本的要素を解説させていただきます。
中医学の診断では、「虚実」「寒熱」というものを重視します。
◎虚実‥‥‥体力が不足して生理機能が衰えた状態が「虚」、体力は正常でも本来あるべきでないものが(過剰に)存在する状態が「実」です。
◎寒熱‥‥‥読んで字のごとく、体に自覚的・他覚的に冷えのある状態が「寒」、熱やのぼせのある状態が「熱」です。
また、皆さんも「気血」「気血水」という言葉を見聞きしたことがあると思いますが、中医学ではこれも基本となる要素です。ただ「気血水」というのは日本漢方で使う用語で、中医学では「気血津液(しんえき)」といいます。(ちなみに「漢方薬」とは日本で独自に発展したもので、中国では「中薬」といいます。)これらは人体を構成し、生命活動を維持する基本的物質です。
◎気‥‥‥すべての物質の基本となるものですが、働きはあっても肉眼で見えない物質です。臓腑の生理機能を指すこともあります。血液や栄養物質を運んだり、新陳代謝を促したり、体温を維持したり、排泄機能を調整したりと、さまざまな役割を担っています。
◎血‥‥‥現代医学でいう血液とほぼ同じで、脈管の中を巡って全身の組織・器官に栄養を与える物質です。気と相互に対立・依存する関係にあり、それぞれの運行や生成に、密接に関わっています。
◎津液‥‥‥人体内のすべての正常な水液(血液以外の液体)のことです。たとえば涙や唾液、鼻水、胃液などがこれに当たり、汗や尿も津液が変化したものです。機能としては、体の各部を潤し養います。
【参考文献】
神戸中医学研究会(編著):基礎中医学,燎原,1995
高金亮(監修):中医基本用語辞典,東洋学術出版社,2006
以上の物質が、それぞれ「虚」=足りない状態であったり、「実」=過剰な状態あるいは滞ったり、また冷えたり熱を持ったりしていると、疾病が生じてきます。これらを踏まえて、次回に便秘の分類をご紹介いたします。